つながり


 「あ、バノッサおかえり!」
 愛妻からの明るい言葉を受けて、バノッサはこの家に帰ってきたんだ
なということを実感する。
 から揚げに集中している夏美の腰を捕らえて、振り向かせざまにむさ
ぼるようにキスをする。
 「ふ、ん、む」
 鼻にかかるような声を出し、夏美もしばらく彼のやりたい様にさせて
いたのだが、息苦しくなってくると必死に離れようともがきだす。
 あばれる夏美を壁と自分の体で挟み込んで大人しくさせ、気の済むま
でキスをする。
 満足そうに彼が顔をはなすと、夏美はぐったりと彼の腕に倒れ込んだ。
 「どうだ、久しぶりの俺様のキスは?腰が抜けるほどよかったか?」
 夏美の半開きになっている唇に舌を這わせる。
 彼女の口からは随分色のある呼吸音が漏れる。
 「ば、ば、ばか!ばか、ばか、ばか!!!!!」
 夏美はバノッサの横っ面をこぶしで殴った。
 「な、なに考えてんのよ!こんな真昼間から!!この色魔!」
 顔を真っ赤にしてがなる夏美に、バノッサは堪えきれずに笑う。
 ああ、なんてかわいいんだろう。
 そう思わずにはいられない。
 けれどそんな事言ってやるほど彼は素直ではなく。
 爆笑の合間に、再び夏美の唇を舐めあげる。
 すると、一気に彼女の顔に色が登って、更にバノッサは笑う。
 「も、料理してんだから邪魔しないでよ!」
 「邪魔じゃねえだろ?」
 「じゃま、じゃま、じゃーま!」
 「んだと?てめえが気にしなければ良いだけの話だろうが」
 夏美の腰のあたりをさわさわとなで上げて、ほっそりとした首筋に歯
をあてがう。
 「ぎゃー、何すんのよ!」
 じたばたとあばれる。
 「おい、も少し色気のある声出せよ」
 「じょ、冗談!んな声だしたら、バノッサおさえ効かなくなるじゃん!」
 経験上、嫌というほど理解させられている。
 「ほー、よく分かってるじゃねえか」
 不敵に笑って、バノッサは突然きわどい場所を愛撫し始めた。
 ギョッとする夏美。
 「ちょっと、駄目!夏奈がおきるってば!」
 娘の名前を出すが、
 「ぐっすり寝てるぜ?」
 と答えを返す。
 「それに…………」
 「うるせえなあ。とっとと甘い声あげてもらって、一発…………」

 だむ!

 ナイフがバノッサの頬を掠めて、深々と壁に突き刺さっていた。
 一体どういう力で投げたのか、鍔元まで深々と。
 バノッサは振り返らずとも分かっていた。
 ナイフを投げたのが一体誰なのか。
 夏美は目も当てられないようで、額に手をあてて、深い深いため息を
こっそりと漏らした。
 バノッサの背後に立ちはだかる人物。
 それは…………。
 「おひさしぶりです」
 にこりと微笑む我らがクラレット様。
 「バノッサ兄様」
 「…………てんめえ」
 唸り声を上げるバノッサをよそにクラレット様は夏美の両手を取って、
彼女の無事を確認する。
 「大丈夫ですか、夏美?」
 「え、あ、あははは、うん、大丈夫」
 笑う夏美の口元がほんの少しばかり引きつっていたのは気のせいだろ
う。
 「なんでクラレットがここにいやがる!」
 バノッサは今にも噛みつかんばかりにクラレットに詰め寄った。
 幾度目の前で微笑む彼女に邪魔されたことか。
 時には、邪魔などというかわいいものではなく、暗殺されかけたこと
も…………多々。
 「あら、親友の顔を見に来てはいけないのですか?」
 親友の定義を大幅に越えているクラレット様はしれっと言い切って、
夏美の手をそっととり両目を潤ませて彼女を見た。
 「ごめんなさい、夏美。私お邪魔だったみたいですね」
 「あ、そ、そんな事ないって!」
 夏美は慌てて否定する。
 「元はといえばバノッサが悪いんだから!クラレットは気にしなくっ
て良いよ!」
 「夏美v」
 ひしっと夏美に抱きつき悦に浸るクラレット様。
 そしてバノッサと視線が合い、ニヤリと笑う。
 それはもう、魔王もはだしで逃げる笑みにバノッサも言葉を失い呆然
と夏美の後ろ姿を見つめる。
 夏美とクラレットはきゃいきゃいいいながら鳥のからあげを作る。
 ひっそり涙を流すバノッサ。
 そんなバノッサのズボンをくいっと引っ張る手。
 見れば先ほどまで寝ていたはずの彼と夏美の娘。
 「おとーしゃん、おかえりなしゃーい」
 したったらずな言葉で挨拶する夏奈。
 幸せそうに笑う夏奈にたまらずバノッサはぎゅっと抱きしめた。
 「ちくしょー、俺には夏美と夏奈だけいりゃいいっつーのに!他のつ
ながりなんざいらねえんだよ!」
 「おとーしゃん?」
 よしよしとバノッサの頭を撫でる夏奈。
 
 「俺のかぞくは夏美と夏奈だけだ!!!」
 
 バノッサの絶叫が家に虚しく響く。

 そんなバノッサを見ていた夏奈は一言。
 「おとーしゃんはさびしんぼうなの」








 わざわざありがとうございました。感謝っ。